品川宿奇譚-油を舐める女
昔、品川に紅屋という宿屋があった。
ある日、一人の旅人がこの家に止宿した。おり悪く、その夜は暴風雨となってしまい、旅人はその音が気になって寝つけずにいた。
すると、不思議なことに、障子がすらりと開く音がした。そして何者かが部屋に入ってくる気配が感じられた。
恐る恐る、薄目を開いてみると、そこには宵に給仕にでた宿屋の女。
今頃用のあるはずもない、さてはこの女、手癖が悪く、枕元の金子でも探しに来たのであろう、と考え、寝たふりをして様子をうかがうことにした。
この女、枕元の金子には目もくれず、旅人の寝息を確認すると、行灯を引き寄せ、片頬に笑みを浮かべて行灯の中へ顔を差し入れ、ちゅうちゅうと油を舐めはじめた。
旅人はこの光景に大いに驚き、背筋から冷水を注ぎ込まれたように震え上がった。
女は尚もピチャピチャと油を舐めていたが、やがて満足したのであろう、行灯を元に戻すと何食わぬ顔で旅人を揺り起した。
旅人は、いかにも今目覚めたかのふりをして飛び起きると「しまった、寝過ごした!」と言って、止める女を振り切り、逃げるように宿を去ったとのことである。
管理人注
この話には後日談がついていて、
女はしたが荒れるもので、それを直すために油を舐めた
冷たい油より、行灯で暖まった油の方がよい
とこの奇譚の種明かしをしています。
「化け物の正体は大抵こんなものである」と結んでいるのですが、
夜中には行灯の油も冷えているでしょうし、わざわざ客の行灯を狙う必要もないでしょう。
客を揺り起す理由も書かれていませんよね。そっちの方が興味あるのですが...
最終更新日: 2014-07-28 05:54:10