オリジナル怪談 第13話:公園の神様
町内の公園で不審者情報が寄せられるようになったのは、半年ほど前から。
町内会長を3年前からやっている私の所へは区を通じて連絡があった。
複数の情報があったので、町内会としても見回りをしよう、ということになった。
時間のある年金生活の人たちにおねがいして担当時間を決め、公園のベンチで読書をしたり、編み物をしたりしながら、それとなく不審者を監視する。ということにした。
不審者は人目を気にする。子供が一人で遊んでいるときが危ない。たとえ老人でも、人目があれば手を出すことはないだろう。
だが、事案はその後も相次いで発生した。
読書をしていた当番が、子供の泣き声に驚いて顔を上げる。すると女児が一人で泣いている。付近には誰もいない。子供に聞くと、知らない男に腕を引っ張られたのだという。
同様の事案が再び発生した。今度は不審者が隠れたのだろうかと、付近を探してみたが、どこにも男は潜んでいなかった。
霊の出るうわさ
「ロリコンの幽霊が出る」こんな噂がたち始めた。近所で自殺した若い男が小児性愛者で、その男の霊が公園に現れ、女児の腕を引っ張るのだという。
これには裏付けがあった。
1年ほど前、公園の近くのアパートで自殺があった。当初身元不明ということもあり、町内会長の私も呼び出され、いろいろ事情を聴かれた。
自殺したのは若い男で、いわゆる「ニート」だったようだ。
私は見かけた記憶はないのだが、近所のコンビニ店員は、決まって真夜中に来店して弁当を買っててゆくと証言したそうだ。
部屋には何もなかったのだが、死の直前に男が整理して捨てた思われる大量のゴミの中に、小児性愛者をうかがわせるものがたくさんあったらしい。
私が呼ばれたのは、不審者に関する話を聞いたことがないか、確認するのが目的のようだった。
このことは、住民に知られていないはずなのだが、少しづつ漏れるのであろう。断片的な噂が組み合わさってストーリーが出来上がってしまったようだ。
お祓いをしよう、霊能者を呼んで見てもらおう。そんな要望が町内から上がってきたが、町内会としてそんなこと出来るわけがない。
やったら「やっぱり霊の仕業なのか」となってしまうし、「政教分離はどうした!」と怒鳴り込んでくる人がいるかもしれない。
そうこうしているうちにも、不審者事案は続いていた。子供は怖がって公園に出てこなくなる。
人がいないと、気味悪がってさらに人が遠ざかる。これではせっかくの公園も持ち腐れになってしまう。
霊視
副会長さんの友達の一人に、霊能者ではないが「よく見える」人がいるという。「頼めば見ることくらいはしてもらえる」
ということなので内々に見てもらおう、ということになった。
「そのとおりですね」公園を見た「見える人」は噂をあっさり肯定した。若い男の霊が公園をうろついているのが見えるという。
手ぶらで返すわけにもいかない。家に上がってもらい、お茶を飲ませ、お土産のひよこ饅頭も用意した。
「神様にしてしまったらどうですかね」見える人はお茶を飲みながらアドバイスをくれた。
「日本人は昔からそうやってきたのです。厄介者は祀り上げて、守護者になってもらうのです」
「祠でも建てて、これからは子供を守ってくださいとお願いすれば、現象は収まると思いますよ」
厄介なことになってしまった。呼ばなければよかったと後悔したのだが、すでに後の祭り。
役員の間からは、さてどうやって祠を建てようか、という話が始まってしまった。
昔のことならいざ知らず、現代に公共の公園の中に祠など建てられるわけがない。この件はウヤムヤにするしかなかった。
ところが...とうとう怪我人が出てしまった。
6歳の子供が、母親の見ている前で引きずられ、転んでしまったのだ。
母親によると「透明な何者かに腕を引っ張られていた」のだという。
ドールハウスの神社
結局祠を作ることになった。
もちろん、宗教施設など作れない。そこで、遊具としてドールハウスを寄付するという形になった。
「ドールハウス」は町内の家具工場で仕事をしていた年寄りが作ってくれた。
神社のような、違うような...和風の建物が出来上がり、公園の隅に置かれた。
神主さんに来てもらい、町内会の役員が出て祭祀を行い、「神様」に入ってもらった。
その後、見張り当番が公園に来た時に祠へご挨拶することにした。子供も時折、人形を持ってきて、ドールハウスとして遊んでいる。
事案は発生しなくなり、子供たちは再び公園に戻ってきた。
私はまだ信じられないのだが、やはりあの若者の霊は神様になって子供を守るようになったのだろうかと感じている。
最終更新日: 2018-07-25 04:43:44