オリジナル怪談 第9話:ユーチューバー
夏のネタということで、心霊物の動画を撮ることにした。
大学の同級生3人組。動画を作ってネット上にアップロードしている。人気動画をたくさん作って、広告収入をガッポリ得ようという目論見だ。
人気ユーチューバーになれば、それだけで暮らしてゆくことができる。好きなことやって楽に暮らすのが3人の共通の夢。
それをかなえるべく、いろいろな動画を投稿しているのだが...いまのところ、何をアップロードしてもサッパリ...というのが現状だ。
今度こそインパクトある映像を作って、視聴数を飛躍的に伸ばそう!そんなわけで、深夜のロケをすることになった。
撮影
その辺の墓地とかじゃつまらないからさ、樹海で撮影しようよ。
一人が提案してきた。インパクトは大きいが、そんな半端なく恐ろしいところへ行く勇気などない。
車で30分ほど行ったところにある山の中で撮影して、「樹海で撮影した」ということにした。木しかないのだから、どこで撮影しても同じだ。
なにか出なければ動画としての意味がない。
「一人が幽霊役にになって山中にボーっと立ち、二人が恐る恐る進んだ先で見つけ、「ギャー、幽霊だ!」と、悲鳴を上げて走り出す。
映像はは霊の姿を一瞬捉えたのち、悲鳴を上げて逃げるために画像が乱れ、そのまま終了」というよくある構成。
幽霊役
問題は幽霊役だ。誰もやりたくない。場所が樹海でなく、ただの山の中といっても、真っ暗闇の中にひとり立ち続けるのは恐ろしい。
もしかしたら、本当に霊が出てしまうかもしれない。
3人で霊役を押し付け合い、結局じゃんけんで決めた。幸いなことに、自分は撮影役になった。
霊役がライトを持って恐る恐る山中へ入ってゆく。30mほど行ったところで白いシーツを頭からかぶり、明かりを消す「よーし、早く来てくれー。怖いよー」霊役が情けない声を出す。
さあ、撮影開始だ。
「あれ、なんか臭わないか」
始めようとしたところで先頭役が呟いた。
そう言えわれてみると、臭い。「おい、匂いがするって、霊が出る予兆だっていうよな」
そういうとまた霊役が情けない声を出す「匂いなんてしねぇよ。早く来てくれぇ」
撮影
先頭役がライトで辺りを神経質に照らし出しながらそろりそろりと前へ進む。「樹海怖いな」「なんだか寒気がしてきた」呟きながらカメラでライトで浮かび上がって森を映し出す。
と、立っている霊が見えた。撮影を始めてすぐだ。
「おいカットカット」「お前なんでこんなに近くに移動してんだよ、怖いからって勝手に近づくなよ」二人で大声を上げる。すると遠くでライトの明かりが点いた。
「え?オレ動いてないよ」
「ええ?」「うわぁ本物が出た!」
驚きのあまり、
カメラ
楽天 を放り捨て、夢中で道路まで走り、車に乗り込んだ。ドアをしめ、二人で大きなため息をつく。
森の中から白い幽霊が走り出てきて車に取りつく。
毛が逆立つ程の恐怖を覚えたが...それは幽霊役だった。
翌日
夜が明けて冷静になってみると、「昨日見たのは幻だったんじゃないか?」という気持ちになってきた。
怖い怖いと思っていたら、白い肌の木が幽霊に見えたのかもしれない。ビデオを再生して確認しようとしたが、逃げる時にどこかへ放り出してしまった。
結局3人でもう一度戻ってみることになった。
真昼間のただの山だ、何も怖いことはない。
ビデオカメラはすぐに見つかった。さっそく再生しようとしたが、バッテリー切れ。
霊の立っていたところを見てみようぜ、ということになり、記憶を頼りに霊のいた場所に近づく。
「あ、臭い」
昨夜と同じ、腐敗臭がしてきた。
よく見ると、横に張り出した大きな枝に、先が輪になったロープがぶら下がっていた。
3人ともその先に何があるのかを悟った。
最終更新日: 2018-07-10 09:19:54