私の・愛した・本たち
このページでは私のお気に入りの本を紹介します。
百物語(上・中・下) 杉浦日向子著
江戸時代が舞台の、不思議な話を集めた漫画だ。百物語といえば怪談のことなのだけど、この本の内容は「不思議な話」といった感じのものだ。よくある怪談の本なんかに不自然なほど読者を怖がらせようと意図してかえってしらけてしまうものがあるが、この本の中にはそんなものは全くない。あるのは不思議な、深いあじわいというべきものだ。
今までに何回かこの本を借りて読んでいる。読むときはいつも夜更けの布団の中。読んでいるうちに、いつしか心は本の上にあるのか夢の中にあるのかわからなくなっしまう。そうして物語の続きは延々と続いてゆくのだ。
ところで、著者の杉浦さんはNHKの番組「コメディお江戸でござる」の解説をしている人と同姓同名だが、はたして同一人物なのだろうか。
娘遍路 高群逸枝著
20台前半のころ、ある図書館で娘遍路という随筆を読んだ。大正のころ、当時24歳のうら若き娘であった高群逸枝さんが、何を思ったのか一人で四国八十八ヶ所を巡礼しようと思いたち、故郷肥後の国を出、途中なぜかヨボヨボのじいさんをお供に加え、船で愛媛に渡り、八十八ヶ所を逆周りに巡るという話だ。当時同年代であったこともあり、感銘を受けた私は、さっそく四国巡礼に出かけたことは言うまでもない。残念ながら里庄図書館には「日本の名随筆」の中にほんの少し、足摺の辺りで恐ろしい顔の人に出会ったエピソードの辺りが載っているのを見つけられるだけだ。
私も巡礼中にこのエピソードに出てくるような「恐ろしい顔」の人に出会った。その人がその後数日間、前後して見かけたのが妙に面白かった。その人も同じルートで回るから、何回も見かけたのであろう。巡礼も終わりかけのころ、高群さんが巡礼した時と同い年くらいの若い女性の巡礼者と山の中ですれちがった。その人は真新しい白衣を着てきちんとした巡礼の格好をしているのに、その整った顔に場違いにも真っ赤な口紅をさしていて、何を勘違いしているのか、道端に並んだお地蔵さん一体一体に向かってかしわ手を打っていた。私は理由もなく怖くなり、薄暗い森を抜けるまで走ってしまった。本当に怖い人とはきっとああいう人のことをいうのだろうか。いまでもあの人のことを思うたびに「この世の人だったのだろうか?」と考えてしまう。
耳袋(1・2) 根岸鎮衛著
著者の根岸さんは江戸時代の人だ。とっても偉い人だった。この人が生きているときに「根岸さん」などと呼ぼうものなら「無礼者!」と怒鳴られ、たちまち牢屋に押し込められてしまっただろう。なにしろ、根岸さんはお奉行さまだったのだから。
でも、根岸さんはほかのお奉行さまとちょっと違ったところがあったようだ。自分が見聞きしたことを丹念に記録するのを趣味としていたらしい。その記録をまとめたものが、「耳袋」だ。内容はとても多岐にわたっている。たとえば...
最近流行のファッションをした人物の図。
化け狐を逆に脅迫した勇猛な男の話。
心に留まった歌。
あきれた犯罪の手口。
仙台で捕まえられ塩漬けにされた河童の図。
墓場から掘り出されたミイラのスケッチ。
正体を見破られしどろもどろになってしまう狸の話。
江戸のいろいろな場所で水の重さを量ってみたが、なぜかそれぞれ重さが違っていた話。
出る相手を間違えて説教された幽霊の話。
などなど。実にとりとめもない、バラバラな内容なのだが、これらに共通していることは、「根岸さんの心に留まった事柄」であることだ。読んでみると、どの話にも何か心に訴えかけてくる何かを感じてふと考え込んでしまう。現代語訳でないのがちょっとつらいところだ。
ミツバチ 角田公次 著
別になんの変哲もない本だ。内容は、ミツバチの飼い方を解説している。たまたまこの本を何気なく手に取ったことで、養蜂にのめりこんでしまった。とりたててすごいことが書いてあるわけではないのだが、この本が私の人生をかなり変えたことは間違いのないことだ。何気ない出会い、大切にしたいものですね。対象がなんであっても。
最終更新日: 2002-04-29 21:05:00