アパレル(服飾)3D-CADについて考えてみる
アパレル3D-CADは存在しない
世の中に「アパレル3D-CAD」というものはまだ存在していないようです。
「ようです」というのは3D-CADの定義があいまいであるからで、3D-CADのようなソフトウエアは存在しています。
CLO3Dというシミュレーションソフトが話題ですが、これは別のソフトウエアで作ったパターンを3Dにして着せるものなので、CADとは違います。
ここでは既存の機械設計CADを比較材料にして、もしアパレル3D-CADが出来るなら、こんなものになるだろう、ということを考えてみました。
あくまでも個人的な考えを書いています。
素材による制約
機械設計楽天 用の3D-CADでは、硬い物の設計を扱います。削ったり曲げたりすれば形状は変わりますが、押したくらいでは変形しません。
板金という、薄い金属材料を曲げたり絞ったりして成形するものが布にちょっと似ていますが、これは作るときに曲げるもので、部品として組み込んだのちには変形しません。
例外としてバネやホースがありますが、まあ、これは置いておきましょう。
これに対して布は曲がったり捩じれたりします。人が着れば人のシルエットに沿って変形します。
3D-CADで服の形状を作ることは可能ですが、これを服に仕立てると3Dで作ったものとは形状が異なってきます。
なぜなら、3D-CADで作られた面は曲面なのに対し、服の素材である布は平面だからです。曲面から平面へ変換したときにどうしてもゆがみが生じてしまいます。
ゆがんだ2次元の布を縫い合わせて3次元化しても元の3次元曲面とはずれてしまいます。
3D-CADで作成した曲面を2次元に変形させてパターン楽天 化するソフトウエアは、現在でも存在しています。
以前試してみましたが、結果は参考になる程度で、実用にはなりませんでした。
島精機のホールガーメント
では3D-CADで服を設計出来ないかというと、そんなわけでもありません。2次元の布という制約がなければ可能です。
2次元の布の代わりに1次元の糸を使うのです。糸を編んで服を作る手法、ニットを使えば1次元の糸を3次元の曲面に成形することが可能です。
島精機製作所のホールガーメント
という編み機を使えば、おそらく可能でしょう。
ただ、この手法では作れるものが限られてしまいます。
機械用とアパレル用の3D-CADの相違点
硬い物と柔らかい物という差から、3D-CADの考え方に及ぼす影響を考察してみました。
もしアパレル3D-CADが出来たとしたら、こんな手法で作るのではという予想です。
2次元を3次元に拡張する手法
機械用の3D-CADで3次元形状を作るとき、基本的には2次元の断面を描き、それに厚みを付けたり、カーブに沿って延ばしたりして3次元にします。
下は機械設計用3D-CADによる3D形状作成例です。
〇押し出し
断面に厚みをつけます。
〇回転
断面を回転軸を中心してに回転させます。
〇スイープ
断面を軌道に沿って伸ばします。
布も厚みはありますが、さほど考慮する必要なないでしょう。
アパレル3D-CADの場合は、2次元を「柔らかくする」ことで3次元化すればよいと思います。具体的には、パターンという閉じた局面に囲まれた面を、小さな三角形に分割します。
三角形同士は辺を共有していて離れず、かつ辺を軸に曲がることで3次元化されます。
下の動画は、四角い布を小さな3角形に分割し、支持部を移動させたときの布の動きを描いています。
アセンブリの違い
機械用の3D-CADには、アセンブリという機能があります。部品モデルを個別に作り、組み立てて1つの製品モデルにします。
部品同士の面を合わせたり、軸を一致させることで部品を拘束してゆきます。一つの拘束では動いてしまうので、通常はいくつかの拘束を組み合わせて完全に固定します。
下の例では挿入+整列+角度合致で部品同士を拘束しています。
アパレル3D-CADではどうでしょうか。
アセンブリは布を縫い合わせて服を作ることに似ています。アパレルで拘束に相当するものは、「縫い合わせ」ということになります。複数の布同士でお互いに縫い合わせる辺を指定すれば、服の形に縫いあがります。
布は柔らかいので、縫い合わせるだけでは形状が決まりません。そこで「ボディ」も布の形状を決める要素になります。服はそもそも着る人に合わせるものですから、ボディはアパレル3D-CADでは重要といえるでしょう。
グレーディングはパラメトリックに置き換えられる
アパレルCAD(2次元)で特徴的なのは、グレーディングという作業があることでしょう。
2次元の機械設計CADには該当する機能がありません。
グレーディングは特定のサイズで製図したパターンをS,M,Lサイズというふうに変形させることをいいます。
機械設計でれば、構成部品を大きくしたり小さくしたりしてサイズを変えるという作業に相当するのでしょうが、機械設計でそんなことはしていません。
普通乗用車を設計した後、その部品サイズを調整して軽自動車にしたり、大型の高級車にしたりということは、ちょっと無理でしょう。
しかし、機械用の3D-CADには「履歴型」とよばれるパラメトリック設計が出来るタイプのものがあり、現在の主流を占めてます。
このCADを使うと、例えば100×100×100mmのサイズで設計した箱を、後から80×110×120mmといったふうに変更することが可能です。
この機能は大変便利です。開発初期段階では、様々な形状案を作成するので、全て1から作るのは非常に効率が悪いのです。
アパレル3D-CADにもこの機能は搭載されるべきでしょう。グレーディング作業の工数を減らすことが出来ます。
パレメトリック設計とグレーディングは似ていますが異なるものです。グレーディングは描いたパターンを変形するのに対し、パラメトリック設計はCADが0からパターンを描き直すのです。
パラメトリックが採用されれば、数値を変えるだけでサイズ変更が完了するかというと、そういうわけでもありません。
寸法が変わっても破綻しないよう、あらかじめ人がモデリングしておかなければいけません。また変更後に意図したデザインが保たれているかは人が判断する必要があります。
それでもパラメトリック設計はグレーディングより分があると思います。
下の動画は履歴型2次元アパレルCADの洋裁CADで原型の形状を操作しています。動いているように見えますが、変形させているのではなく、設定数値が変わるたびに
古い線を消し、CADが0から描画し直しています。
最終更新日: 2019-10-16 10:31:28