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オリジナル怪談 第12話:橋の下の仲間たち

Aさんは29歳独身の男性だ。アパートの近くの工場で期間工で働いている。
貯金は30万円。1年間かけてやっと貯めた。カツカツで半年生活できる60万円を目標に、毎日倹約しながら生活している。
「ホームレスになりかけた人の体験談」という取材に、「笑わないでくださいよ」という条件付きで受けてくれることになった。

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学生時代

Aさんは高校卒業後、親元を離れ、都心からだいぶ離れた大学に入学した。
「地方だったので距離感が分からなかったのです。東京の近くだからという理由で決めてしまいました。入ってすぐに後悔しましたよ。 自分の故郷と同じくらいのど田舎だったのです。地図を見ると都心は近かったのですが、実際には遠かったのです。」
Aさんの入学した大学は、いわゆるFランクに属する学校。学生たちはやる気ないし、先生たちもいい加減な授業をしている。
こんな大学に入っても学力などつくはずがない。それでも4年間、在籍しつづけ、卒業した。
「卒業してというより、押し出されたという感じですね。授業などほとんど聞いてなかったけど、授業料払ったから卒業できたという感じですよ。」
卒業後の人生プランなど、なかった。受けた会社はことごとく不採用。アピールできるものは何もないのに、プライドだけは高く、入れそうにない会社ばかり受けては落ちつづけ、そのまま卒業をむかえてしまった。

無職

「家に帰るわけにはいかないし、このまま学生街に住み続ける意味もないので、もうちょっと都会に住みたくなったので、」
都内のワンルームマンションに引越し。その時まで続けていたアルバイトも転居を機に辞めてしまった。
「引越しすれば気分も変わるし、場所が変われば仕事見つかるかなって、軽い気持ちだったのです。」
仕事は見つからなかった。家賃は上がったので、あるかな以下の貯蓄は貯蓄はあっという間に底をついてしまった。

施錠

「自暴自棄になってしまったのです。どうにかなるさ、とりあえず今日は遊んでおこうと。そんな毎日を続けていました」
家賃は滞納を続けた。滞納してもお金はみるみる減ってゆく。
ある日、出かけて夕方に帰ってくると、鍵が開かない。不在の間にドアノブを取り換えられてしまったのだ。
「ああ、やっぱりこうなったのか」その時はそう思いましたね。
来るべきものがいよいよ来た。帰る場所を無くしてしまった。
「その後ぶらぶらと駅前の商店街を歩いてみたり、公園を覗いて眠れそうかなとチェックして歩いていました。」
結局たどり着いたのは町のはずれにかかる国道の橋の下。周りは草茫々だが、橋の直下は土が出ていて埃っぽいがそのまま眠れそうだった。
歩き疲れていたので、すぐに眠り込んでしまいました。

宴会

火の明かりに気がついて目が覚めた。
よく見るとたき火を囲んで数人の男たちがワイワイやっている。酒盛りのようだ。
赤いダウンベストを着た男がこちらに気付いて声をかけてきた。
「おう、寝てないで一緒に一杯やらんか?どっから来たん?ホームレス初日なんだろう?」
着ているものや振る舞いでわかるのだろうか、言い当てられてしまった。
いわれるがままに手渡された発泡酒を飲むと、腐った気分は晴れ、男たちともすぐに意気投合してしまった。
「その時こう思ったのです。(ああ、ホームレスって意外と楽しいんだな、もうこのままこの人たちの仲間に入ってしまおうか)と。」

逃走

「気がつくと朝になっていました。」
「で、それで、恐ろしい気持ちになって橋から逃げ出しました。ホームレスなんて絶対になってはいけない。」
「そう思って、ともかく這い上がらなければと思い、まだ電池の残っていた携帯を使って支援してくれるNGOを探し当てて連絡したのです。」
NGOの人とともに大家と交渉し、滞納している家賃は、計画的に少しづつ支払うという条件で、部屋を再び使えるようにしてもらった。
とはいっても家賃は高すぎる。ほどなくして住み込みの新聞配達を始め、借金は何とか返済した。
その後、もう少し支払いのよい工場への仕事に替え、今に至るのだという。

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理由

ところで、なぜその朝、恐ろしい気持ちになったのですかと問うと、Aさんは黙り込んでしまった。
「あのう、笑わないでくださいよ」そう言ってもう一度念を押すと、Aさんはその日の朝見たことを話してくれた。
「たくさん飲んで、食べて、さんざん騒いだあと、気がついたら寝ていて、朝になっていました。」
「自分の他に誰もいませんでした。もう出かけたのかなと思ったのですが...焚火の跡も、飲み捨てた缶もなかったのです。」

「だけど...」

「だけど、赤いダウンベストは見つけたのです」
自分に声をかけてくれた男の来ていたダウンベスト、
「土に埋もれていました。何年もそこに埋もれていたようで、色あせていました。不審に思って引っ張ってみたら、人の骨も一緒に出てきたのです。」
「それで、それで、恐ろしくなって逃げたのです」
Aさんの表情からはウソを言っているようには見えなかった。
「生活が落ち着いてから、もう一度あの端に行ってみたのです。骨が本当にあったら、警察へ届けようと思って。」
「もうありませんでした。あの橋での出来事は、今では勘違いかなとか、夢だったかなと思う時もあります。」

「でも怖いのです。ホームレスになってしまったら、またあの人たちの仲間になってしまう。
もう一度彼らの仲間に入ってしまったら、もう二度と抜け出せない気がするのです。」

毎日必死で働き、我慢して少しづつお金をためている理由、それは彼らに対する恐怖なのだと教えてもらった。

最終更新日: 2016-08-30 05:33:59

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